【質問主意書】
従軍慰安婦問題に係る国連特別報告書に関する質問主意書

 弁護士の戸塚悦朗氏は、一九九二年二月、国連人権委員会で従軍慰安婦問題を「日本帝国軍のセックス・スレイブ」だとし、NGOとして初めて提訴した。彼は、一九九二年から一九九五年までの四年間に、国連に対して合計十八回のロビー活動を行い、一九九六年にはついに国連人権委員会で特別報告書(クマラスワミ報告書)が提出・採択された。本報告書採択の際の政府の対応につき、以下、質問する。
一 クマラスワミ報告書には、「本報告書の冒頭において、戦時下に軍隊の使用のために性的奉仕を行うことを強制された女性の事例を軍隊性奴隷制(military sexual slavery)の慣行であると考えることを明確にしたい」とある。これにより、国連の報告書に「セックス・スレイブ」という言葉が入った。当時、外務省は、クマラスワミ報告書が採択される前に、四十ページにわたる反論文書を提出した。ところが、これがなぜか突然、撤回された。なぜ、報告書採択直前になって急遽撤回に至ったのか。その理由・経緯について説明するとともに、政府の見解を明らかにされたい。
二 クマラスワミ報告書採択当時の橋本政権においては、社民党が与党であった。日本政府は、クマラスワミ報告書へ反論する代わりに、「もう日本は謝っている。財団法人女性のためのアジア平和国民基金も作っている。」という旨の文書に差し変えてしまった。これにより、この見解が日本政府の国際社会に対する立場になってしまった。政府がこのような対応を採った理由・経緯について説明するとともに、政府の見解を明らかにされたい。
  右質問する。

【答弁書】
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参議院議員片山さつき君提出従軍慰安婦問題に係る国連特別報告書に関する質問に対する答弁書

一及び二について
 国際連合人権委員会が任命したクマラスワミ特別報告者による報告書(以下「クマラスワミ報告書」と
いう。)が、平成八年二月に、国際連合に提出されたことを受け、我が国は、同年三月に、クマラスワミ
報告書に対する日本政府の見解等を取りまとめ、同委員会の構成国を中心とした各国(以下単に「各
国」という。)に対して働きかけを行うとともに、国際連合に提出した。
 また、同委員会において「女性に対する暴力撤廃」と題する決議が、同年四月に採択されたが、その過
程において、当該決議の案文がクマラスワミ報告書に言及していることから、我が国の立場についてで
きるだけ多数の国の理解を得ることを目指し、我が国が、同年三月に、「女性に対する暴力及びいわゆ
る「従軍慰安婦」問題に関する日本政府の施策」と題する文書を改めて作成し、各国に対して働きかけ
を行うとともに、当該文書を国際連合に提出した結果、当該文書が国際連合の文書として配布されたも
のである。
 当該文書においては、平成五年八月四日の内閣官房長官談話にも言及しつつ、女性のためのアジア
平和国民基金を通じた取組等について説明し、また、我が国の立場として、いわゆる従軍慰安婦問題を
含め、先の大戦に係る賠償並びに財産及び請求権の問題については、我が国として、日本国との平和
条約(昭和二十七年条約第五号)及びその他関連する条約等に従って誠実に対応してきたところであり、
これらの条約等の当事国との間では、法的に解決済みであって、クマラスワミ報告書における法律論の
主要部分につき、重大な懸念を示す観点から留保を付す旨表明している。
 なお、同委員会が任命した特別報告者による報告書を同委員会で採択する慣行はなく、通常は、当該
報告書に関連する同委員会の決議において、当該報告書が言及されるものと承知している。